企業価値評価(バリュエーション)では、DCF法やマルチプル法などの計算そのものだけでなく、計算に使用するマーケットデータをどこから取得し、どの数値を採用するかが非常に重要です。
特にDCF法では、
- リスクフリーレート
- 負債コスト
- 市場リスクプレミアム(ERP)
- β(ベータ)
- サイズリスクプレミアム
- カントリーリスクプレミアム
- 非流動性ディスカウント(DLOM)
- 永久成長率
など、複数の市場データ・評価パラメータを使用します。
しかし実務では、
「リスクフリーレートはどこから取得するのか?」
「日本企業のERPは何%を使えばよいのか?」
「βはBloombergなどの有料データベースがないと取得できないのか?」
「非流動性ディスカウントは30%でよいのか?」
といった疑問が生じます。
この記事では、企業価値評価で使用する代表的なマーケットデータについて、主な取得先・具体的な調べ方・計算方法・実務上の注意点をまとめます。
単に「このサイトを見ればよい」という紹介ではなく、実際のバリュエーション業務でどのようにデータを選択するかという観点から解説します。
- この記事で分かること
- リスクフリーレートとは
- 日本企業を評価する場合
- 何年物の国債を使えばよい?
- 米国企業を評価する場合
- 負債コストとは
- 負債コストの調べ方
- 実務では「既存借入金の利率」をそのまま使わない
- 市場リスクプレミアムとは
- 日本のERPは「5~6%」と固定してよい?
- βとは
- 自分でβを計算する方法
- 修正β
- なぜアンレバードβを使うのか
- サイズリスクプレミアムとは
- 取得先
- サイズプレミアムを機械的に追加してはいけない
- カントリーリスクは「本社所在地」だけで判断しない
- DLOMとは
- 永久成長率とは
- WACCと永久成長率の関係
- ① 評価基準日を統一する
- ② 通貨を統一する
- ③ データソースを混ぜすぎない
- ④ データ取得日を記録する
- 企業価値評価をさらに勉強したい方へ
- 参考資料・データソース
この記事で分かること
この記事では、以下のマーケットデータ・評価パラメータの取得方法を解説します。
| データ | 主な取得先 | 主な用途 |
|---|---|---|
| リスクフリーレート | 財務省、JSDA、FRED | CAPM、WACC |
| 負債コスト | JSDA、社債利回り、データベンダー | WACC |
| 市場リスクプレミアム(ERP) | Kroll、Damodaran等 | CAPM、WACC |
| β(ベータ) | Bloomberg、LSEG、S&P Capital IQ、SPEEDA等 | CAPM |
| アンレバードβ | Damodaran、データベンダー、自社計算 | 非上場会社評価 |
| サイズリスクプレミアム | Kroll、Ibbotson等 | 非上場会社評価 |
| カントリーリスクプレミアム | Kroll、Damodaran等 | 国別リスクの調整 |
| 非流動性ディスカウント(DLOM) | 評価資料・取引事例・専門データ | 非上場株式評価 |
| 永久成長率 | 経済成長率・インフレ率等 | DCF法 |
1.リスクフリーレート
リスクフリーレートとは
リスクフリーレートとは、理論上、信用リスクがない投資から得られる利回りを指します。
DCF法では、CAPMを利用して株主資本コストを計算する際などに使用します。
基本的なCAPMの計算式は以下です。
株主資本コスト
= リスクフリーレート + β × 市場リスクプレミアム
したがって、リスクフリーレートは企業価値評価における非常に重要なインプットです。
日本企業を評価する場合
日本企業の円貨建てキャッシュ・フローを評価する場合、日本国債の利回りをリスクフリーレートの候補とするのが一般的です。
取得先としてまず確認したいのが、財務省の「国債金利情報」です。
財務省では日本国債の利回りについて継続的に情報を公表しています。
また、日本証券業協会では「公社債店頭売買参考統計値」を公表しています。
公社債店頭売買参考統計値は、公社債の店頭取引における価格・利回りの参考情報として公表されているものです。
主な取得先
- 財務省「国債金利情報」
- 日本証券業協会「公社債店頭売買参考統計値」
- Bloomberg
- LSEG Workspace
- S&P Capital IQ
何年物の国債を使えばよい?
ここは実務上非常に重要なポイントです。
国内企業の評価においては一般的には10年国債を用いるケースが多いかと思いますが、「日本企業なら10年国債を使う」と機械的に決めるのではなく、評価対象のキャッシュ・フローの期間や評価目的との整合性を確認する必要があります。
例えば、DCF法で5年程度の事業計画を前提としていても、ターミナルバリューまで含めれば企業価値は長期のキャッシュ・フローを反映します。
そのため、
- 10年国債
- 20年国債
などの候補を比較し、評価対象のキャッシュ・フローや市場慣行との整合性を確認します。
重要なのは、「何年物が正解」と決め打ちすることではなく、選択した年限について合理的な説明ができることです。
米国企業を評価する場合
米ドル建ての企業価値評価では、米国債の利回りを利用することが一般的です。
FREDでは、米国財務省のTreasury Constant Maturity Rateで確認できます。
2.負債コスト
負債コストとは
負債コストは、企業が借入金や社債などによって資金を調達する際のコストです。
WACCでは、税効果を考慮して以下のように使用します。
WACC
= 株主資本コスト × 株主資本比率
+ 負債コスト(税引前) ×(1-実効税率)× 負債比率
負債コストの調べ方
上場企業で社債を発行している場合は、その会社の社債利回りを参考にすることができます。
また、企業の信用格付と社債利回りを利用して、
負債コスト
= リスクフリーレート + 信用スプレッド
という形で推定する方法もあります。
日本証券業協会では、格付マトリクス表を公表しています。これを利用すると、格付水準と債券利回りの関係を確認できます。
実務では「既存借入金の利率」をそのまま使わない
注意したいのが、現在の借入金利をそのまま負債コストとする方法です。
企業が過去に低金利で借り入れたローンを保有している場合、その金利は現在の市場環境を反映していない可能性があります。
企業価値評価では、原則として評価日時点で市場参加者が要求する資金調達コストを意識する必要があります。
そのため、
- 評価日時点のリスクフリーレート
- 対象会社の信用リスク
- 借入期間
- 通貨
- 担保の有無
- 借入条件
などを考慮して負債コストを推定します。
3.市場リスクプレミアム(ERP)
市場リスクプレミアムとは
市場リスクプレミアム(Equity Risk Premium、ERP)とは、
株式投資に要求される期待収益率とリスクフリーレートとの差
を意味します。
CAPMでは、
株主資本コスト
= リスクフリーレート + β × ERP
という形で使用します。
4.ERPはどこから取得する?
代表的な情報源として、以下があります。
Kroll
Krollは企業価値評価・コスト・オブ・キャピタル関連のデータを継続的に提供しています。
Krollでは、ERP、リスクフリーレート、サイズプレミアム、βなど、コスト・オブ・キャピタルの計算に使用する各種データを提供しています。
また、国際的な評価では、国別リスクプレミアムや国別のERPなどを提供するInternational Cost of Capital Moduleもあります。
Damodaran教授
ニューヨーク大学のAswath Damodaran教授は、企業価値評価に関連する大量のデータを無料で公開しています。
2026年のデータでは、
- Historical Returns
- Implied Equity Risk Premium
- Country Risk Premium
- Industry Beta
- Levered Beta
- Unlevered Beta
- Total Beta
などを確認できます。
日本のERPは「5~6%」と固定してよい?
ここは注意が必要です。
実務で「日本のERPは5~6%程度」といった説明を見かけることがありますが、ERPは評価日時点の市場環境や採用する推定方法によって変わるため、固定値として扱うべきではありません。
例えば、
- 過去の株式リターンから推定する方法
- インプライドERPを利用する方法
- Kroll等の専門機関の推奨値を利用する方法
- Damodaran等のデータを利用する方法
などがあります。
Damodaranも、Historical Premiumだけでなく、現在の市場価格や期待キャッシュ・フローからImplied Equity Risk Premiumを推定する方法を紹介しています。
したがって、重要なのは「ERPを何%にするか」だけではありません。
なぜそのERPを採用したのかを説明できることが重要です。
5.β(ベータ)
βとは
βは、対象会社の株価が市場全体の変動に対してどの程度反応するかを示す指標です。
例えば、
β=1.2
であれば、市場全体の変動に対して対象会社の株価が相対的に大きく動く傾向があることを意味します。
CAPMでは、
株主資本コスト
= リスクフリーレート + β × ERP
として利用します。
6.βの取得方法
βは以下のようなデータベンダーから取得する方法があります。
- Bloomberg
- LSEG Workspace
- S&P Capital IQ
- SPEEDA
- その他の金融データベース
一方、無料の株価データを利用して自分で計算することもできます。
自分でβを計算する方法
例えば日本企業であれば、
- 対象会社の株価
- TOPIXなどの市場指数
を取得します。
そのうえで、一定期間のリターンを計算し、
β=Covariance(対象会社リターン、市場リターン)
÷ Variance(市場リターン)
で計算できます。
Excelであれば、COVARIANCE.S関数とVAR.S関数などを利用して計算できます。
7.βの観測期間と頻度
βを計算するときには、
- 日次
- 週次
- 月次
などのリターン頻度と、
- 1年
- 2年
- 3年
- 5年
などの観測期間を選択する必要があります。
実務では「週次2年」「月次5年」などが利用されることがありますが、これも絶対的なルールではありません。
特に、
- 株価の流動性が低い
- 上場期間が短い
- M&A等で事業内容が大きく変わった
- 市場環境が大きく変化した
といった場合には、機械的に期間を設定することには注意が必要です。
8.未修正β・修正β・アンレバードβ・レバードβ
βについて実務で混乱しやすいのが、βには複数の種類があることです。
代表的には、
- 未修正β(Raw Beta)
- 修正β(Adjusted Beta)
- レバードβ(Levered Beta)
- アンレバードβ(Unlevered Beta)
- リレバードβ(Relevered Beta)
があります。
修正β
代表的な修正方法の一つとして、Blume型の修正があります。
修正β
= 0.35 + 0.65 × 未修正β
例えば未修正βが1.20の場合、
0.35 + 0.65 × 1.20
= 1.13
となります。
ただし、これはβを修正する方法の一つであり、すべての評価で必ずこの式を使うという意味ではありません。
9.アンレバードβへの変換
企業価値評価では、比較対象会社の資本構成の違いを取り除くため、βをアンレバード化することがあります。
一般的に用いられるHamada公式(負債ベータをゼロと仮定)の場合は、
アンレバードβ
= レバードβ ÷[1+(1-税率)×D/E]
です。
例えば、
- レバードβ=1.20
- 実効税率=30%
- D/E=0.50
なら、
1.20 ÷[1+(1-30%)×0.50]
= 1.20 ÷ 1.35
≒ 0.89
となります。
その後、評価対象会社の目標D/Eに合わせてリレバードβを計算します。
なぜアンレバードβを使うのか
比較対象会社ごとに、
- 借入金の割合
- 自己資本の割合
が異なるためです。
例えば、
A社:D/E=0.2
B社:D/E=1.0
であれば、同じ事業を営んでいてもレバードβは異なる可能性があります。
そこで、いったん資本構成の影響を取り除いてアンレバードβを算定し、評価対象会社の資本構成に合わせてリレバードすることで、比較可能性を高めます。
10.サイズリスクプレミアム
サイズリスクプレミアムとは
サイズリスクプレミアムとは、企業規模が小さいことに伴う追加的なリスクを株主資本コストに反映するためのプレミアムです。
特に、
- 非上場会社
- 中小企業
- 上場しているものの時価総額が非常に小さい会社
などの評価で検討されることがあります。
取得先
代表的なデータソースとして、
- Kroll
- Ibbotson系データ
- その他の専門的なバリュエーションデータ
があります。
KrollのCost of Capital Inputsでは、サイズプレミアム、ERP、リスクフリーレート、βなどのデータが提供されています。
サイズプレミアムを機械的に追加してはいけない
注意したいのは、
「非上場会社だからサイズプレミアムを必ず追加する」
という考え方です。
サイズリスクプレミアムを追加する場合には、
- 対象会社の規模
- 比較対象会社の規模
- 既にβやERPに織り込まれているリスク
- 採用している評価モデル
などを確認する必要があります。
特に、複数のデータソースからプレミアムを追加していくと、同じリスクを二重計上する可能性があります。
11.カントリーリスクプレミアム
海外事業を評価する場合には、カントリーリスクを検討する必要があります。
例えば、日本企業であっても、売上や利益の大部分が新興国から生じている場合、日本のリスクだけを前提としてよいとは限りません。
Damodaranは、カントリーリスクプレミアムについて、国の信用リスクや株式市場のリスクなどを考慮して推定する方法を解説しています。
また、Damodaranは2026年1月時点の各国リスクプレミアムを公開しています。
Krollも国際的なコスト・オブ・キャピタルのデータとして、Country Risk Premiumなどを提供しています。
カントリーリスクは「本社所在地」だけで判断しない
実務上重要なのがここです。
例えば、
- 日本本社
- 売上の80%が米国
- 製造拠点が東南アジア
という会社であれば、本社所在地だけを見て日本のカントリーリスクだけを適用するのは適切とは限りません。
重要なのは、
「どの国・地域からキャッシュ・フローが発生しているのか」
です。
Damodaranも、企業のカントリーリスクへのエクスポージャーを考える際、法人所在地だけではなく事業活動から生じるエクスポージャーを見る考え方を示しています。
12.非流動性ディスカウント(DLOM)
DLOMとは
DLOM(Discount for Lack of Marketability)とは、株式の換金性・市場性が低いことを理由として株式価値をディスカウントするものです。
特に非上場会社の株式評価で問題になります。
例えば、上場会社の株式であれば市場ですぐに売却できます。
一方、非上場会社の株式では、
- 買い手を探す必要がある
- 売却まで時間がかかる
- 株式譲渡制限がある場合がある
- 情報の非対称性が大きい
などの事情があります。
そのため、上場会社の株価をそのまま非上場会社の株式価値に適用することが適切ではない場合があります。
13.DLOMは「20~30%」と決めてよい?
これは非常に重要です。
実務では「DLOMは20~30%程度」という説明を見かけることがあります。
しかし、20%や30%という数字を機械的に適用するのは避けるべきです。
DLOMは、
- 株式の流動性
- 会社規模
- 収益性
- 株式譲渡制限
- 売却可能性
- IPO可能性
- 配当政策
- 会社の事業内容
- 株主構成
- 保有期間
など、さまざまな要因を考慮して判断する必要があります。
したがって、
「非上場会社だからDLOM30%」
ではなく、
「なぜこの会社について、この水準のDLOMが合理的なのか」
を説明できることが重要です。
14.DLOMの算定方法
DLOMにはさまざまな考え方があります。
代表的には、
- Restricted Stock Method
- Pre-IPO Method
- Option-based Method
- その他の市場取引データを利用する方法
などがあります。
評価対象会社の状況に応じて、複数の方法を比較することもあります。
なお、DLOMは「非上場だから必ず適用する調整」ではありません。マーケット・アプローチ(類似会社比較法)など上場株価をソースとする手法で特に検討が必要となります。
評価対象の株式そのものに市場性があるか、株式譲渡制限があるか、評価の目的は何かなどを確認する必要があります。
15.永久成長率
永久成長率とは
DCF法では、予測期間終了後の企業価値をターミナルバリューとして計算します。
永久成長率法を利用する場合、代表的な式は、
ターミナルバリュー
= FCFF ×(1+g)÷(WACC-g)
です。
ここで「g」が永久成長率です。
16.永久成長率は何%にする?
永久成長率について、
「3%にする」
「2%にする」
と固定的に考えるのは危険です。
永久成長率は、企業が永続的に生み出すキャッシュ・フローの成長率を意味します。
そのため、長期的には、
- インフレ率
- 実質GDP成長率
- 名目GDP成長率
- 対象企業の成熟度
- 対象企業の属する業界
などとの整合性を検討します。
WACCと永久成長率の関係
DCF法では、
WACC > 永久成長率
である必要があります。
例えば、
WACC=8%
永久成長率=10%
としてしまうと、
WACC-g
がマイナスになり、通常の永久成長率法によるターミナルバリューの計算が成立しません。
また、WACCと永久成長率の差が小さすぎると、企業価値が永久成長率に非常に敏感になります。
そのため、
WACCと永久成長率の感応度分析
を行うことが重要です。
17.企業価値評価で使うマーケットデータ一覧
実務では、以下のように整理しておくと便利です。
| 項目 | 主なデータソース | 実務上のポイント |
| リスクフリーレート | 財務省、JSDA、FRED | 通貨・期間を合わせる |
| 負債コスト | 社債利回り、JSDA、データベンダー | 信用リスクを反映 |
| ERP | Kroll、Damodaran等 | 評価日時点を確認 |
| β | Bloomberg、LSEG、Capital IQ等 | 観測期間・頻度を確認 |
| アンレバードβ | Damodaran、比較会社、自社計算 | 資本構成を調整 |
| サイズプレミアム | Kroll、Ibbotson等 | 会社規模を確認 |
| カントリーリスク | Kroll、Damodaran等 | キャッシュ・フロー所在地を確認 |
| DLOM | 評価データ・取引事例等 | 固定率にしない |
| 永久成長率 | 経済指標・業界分析 | 長期成長率との整合性を確認 |
18.マーケットデータを取得するときの実務上の5つの注意点
① 評価基準日を統一する
最も重要なのが評価基準日です。
例えば、
- リスクフリーレート:2026年6月30日
- ERP:2026年1月
- β:2025年12月末
- 株価:2026年6月30日
となっていると、データの基準日がバラバラになります。
もちろんデータの更新頻度などから完全に一致させられないケースもありますが、原則として評価基準日との整合性を確認する必要があります。
② 通貨を統一する
円建てキャッシュ・フローを評価するのであれば、円ベースのリスクフリーレートやERPとの整合性を確認します。
ドル建てキャッシュ・フローならドルベースで考えます。
「円建てキャッシュ・フローなのにドルのリスクフリーレートを使用する」
といった通貨の不整合には注意しましょう。
③ データソースを混ぜすぎない
例えば、
- KrollのERP
- Damodaranのβ
- 別のデータソースのサイズプレミアム
を組み合わせること自体が直ちに誤りというわけではありません。
しかし、それぞれのデータが、
- どの期間
- どの市場
- どの定義
- どの計算方法
で算定されているかを確認する必要があります。
特にプレミアムを複数追加すると、同一リスクの二重計上が起こる可能性があります。
④ データ取得日を記録する
バリュエーションファイルには、
「データソース」「取得日」「評価基準日」「採用値」
を記録しておくことをおすすめします。
例えば、
| 項目 | 内容 |
| 評価基準日 | 2026年6月30日 |
| リスクフリーレート | 日本国債10年 |
| データソース | 財務省 |
| データ取得日 | 2026年7月1日 |
| ERP | Kroll推奨値 |
| β | 比較会社から算定 |
| サイズプレミアム | Kroll |
| 永久成長率 | 1.0% |
という形です。
これだけでも、後からレビューするときの作業負担が大きく減ります。
19.「どの数字を使ったか」より「なぜ使ったか」が重要
企業価値評価では、
「ERPは5.5%です」
「βは1.1です」
という数字だけを示しても十分ではありません。
重要なのは、
なぜその数字を採用したのか
を説明できることです。
例えばERPなら、
評価基準日時点の市場環境を反映するため、Krollが公表する最新のERPを参照した。
βなら、
対象会社と事業内容が類似する上場比較会社を選定し、それぞれのレバードβをアンレバード化したうえで、対象会社の目標資本構成に基づきリレバードβを算定した。
というように、データ→選択理由→計算方法→採用値の流れを残します。
これがバリュエーションのレビューでは非常に重要です。
20.企業価値評価のマーケットデータ取得フロー
実務では、以下の順番で整理するとスムーズです。
STEP1 評価条件を決める
まず、
- 評価基準日
- 評価通貨
- 評価対象
- 評価目的
- 評価手法
を明確にします。
STEP2 リスクフリーレートを取得する
評価通貨に対応した国債等の利回りを取得します。
STEP3 ERPを決定する
Kroll、Damodaran等のデータを比較し、採用するERPとその根拠を整理します。
STEP4 比較会社を選定する
βを推定する場合には、事業内容や地域、顧客、収益構造などを考慮して比較会社を選定します。
STEP5 βをアンレバード化する
比較会社の資本構成による影響を取り除きます。
STEP6 対象会社の資本構成でリレバードする
対象会社の目標資本構成を使用してレバードβを算定します。
STEP7 必要なプレミアム・ディスカウントを検討する
- サイズリスク
- カントリーリスク
- 非流動性
- その他の固有リスク
などを検討します。
ただし、既にβやERP等に含まれているリスクを追加しないよう注意します。
STEP8 WACCを計算する
株主資本コストと負債コストを資本構成に応じて加重平均します。
STEP9 永久成長率を設定する
長期的な経済成長率やインフレ率、対象会社の成熟度などを考慮します。
STEP10 感応度分析を行う
最後に、
- WACC
- 永久成長率
- EBITDA
- 売上高成長率
- EBITDAマージン
などを変化させ、企業価値への影響を確認します。
21.まとめ
企業価値評価では、DCFの計算式そのものよりも、インプットとなるマーケットデータをどのように選択したかが評価結果に大きな影響を与えることがあります。
特に重要なのは以下です。
- リスクフリーレートは評価通貨と期間を合わせる
- ERPは固定値として扱わず、評価日時点のデータを確認する
- βは観測期間・頻度・市場指数を確認する
- 比較会社のβはアンレバード化して比較する
- サイズプレミアムは会社規模を踏まえて検討する
- カントリーリスクは本社所在地だけでなくキャッシュ・フローの所在地を確認する
- DLOMを「20%」「30%」などと機械的に決めない
- 永久成長率は長期的な経済成長との整合性を確認する
- 同じリスクを複数の調整項目で二重計上しない
- 評価基準日・データソース・取得日・採用理由を記録する
最終的には、
「その数値が一般的だから使った」
ではなく、
「評価対象会社、評価基準日、評価通貨、評価目的を踏まえると、このデータをこの方法で採用することが合理的である」
と説明できることが重要です。
バリュエーションのレビューや監査対応を考える場合には、計算結果だけでなく、マーケットデータの出所と採用根拠までドキュメント化しておくことをおすすめします。
企業価値評価をさらに勉強したい方へ
企業価値評価では、マーケットデータの取得方法だけでなく、
- DCF法
- WACC
- CAPM
- β
- マルチプル法
- OPM法
- 非流動性ディスカウント
- 株式価値評価
などを体系的に理解することが重要です。
企業価値評価をこれから勉強する方は、以下の記事も参考にしてください。
「企業価値評価を学ぶおすすめ本47選!レベルや目的別に実務で使える名著を紹介」
「企業価値評価(バリュエーション)マーケットデータ・調整係数の取得方法まとめ」
参考資料・データソース
本記事では、企業価値評価の実務で広く参照されている以下の情報源を参考にしています。
- 財務省「国債金利情報」
- 日本証券業協会「公社債店頭売買参考統計値」
- Kroll「Cost of Capital」
- Aswath Damodaran(NYU)「Data for current year」
- Federal Reserve / FRED「Treasury Constant Maturity Rates」
特にKrollは2026年にも米国ERP・リスクフリーレートに関する推奨値を更新しており、Damodaranも2026年のERP、Country Risk Premium、Industry Beta等のデータを公開しています。
※マーケットデータは更新されるため、実際の企業価値評価では必ず評価基準日時点の最新データを確認してください。

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